八尾
売るという方向性は決まったとして具体的にどうやって会社を売るのか、初動でどうやって動くのか、また今回一番特徴的だったFA仲介なく自分で交渉に行くという経緯を説明してもらえますか?
吉永
MAは、大体売り手が初体験で、買い手の大企業は今までにもたくさん買ってきた経験があるので、情報格差が激しいので、対等に話し合うために売り手はFAを入れるというのが普通だと思います。最初、私もそれを検討してFAの人にあったりしていました。
一方で、先輩の起業家でイグジットした経験のある方がいましたので、会社の状況を伝えました。
たまたまタイムリーに、弊社のサービスを代理店として取り扱いたいという企業が出てきましたので、1年ほど前から軽い売却の打診があった企業も含めると、興味ある企業は複数いるということで、それならFAを介さず直接交渉でもいいのではとアドバイスいただきました。
そこで、初めてFAなしで交渉するという選択肢もあるかと思い始めました。
八尾
そのパターンは、割合でいくとどのくらいなのですか?
吉永
8割くらいはFAが入っていると思います。もっと多いかもしれません。
今JMDCで投資部にいる人達に話を聞くと、売り手の社長が直接持ってくるケースは稀だと言っていました。
八尾
確かに、そういうイメージはないですね。
吉永
実は、JMDCは最初売却先の候補にこちらとしては上がっていなかったのですが、たまたま友達と飲んでいた時に、ラ・サールの同期で医療データ解析で起業している二宮から「それならJMDC興味持つと思うから声かけてみたら?」と言われてアプローチし始めました。
JMDCは、一番最後に声をかけましたね。3月初旬でしたので、JMDCにとっては、最初に私と話をしてからクロージングまでは3週間ととても短かったと思います。
八尾
そうだったんですね。そこでも、ラ・サール生が出てくるんですね。
あ、今、視聴者の方から質問がきています。
「買い手からすると、3週間のDDというのは実質的にはビジネスDDも十分に出来なかったと思うのですが、買い手は何を買ったという認識だったのでしょうか?」
吉永
1つは、3人という少人数でこれだけ小回りの利くPMFを達成したプロダクトを作ったことを評価されていました。あとは、営業や広告にお金をかけて広げていけば、導入件数は伸びると思ったからだと思います。
月次の解約率が0.4%程度ととても低かったので、その点は評価していただけました。
あとは、これは本当かどうかは分からないですが、私含め、人材を買ったというのもあると思います。
視聴者A
0.4%の解約率はとても低いですね。
でも、VCを入れずにPMFを達成してMAまで行ったというのはすごいですね。
吉永
ありがとうございます。ただ、悩みというか、自分ができなかったと思っていることは、少し小利口すぎたのかなという点ですね。
もう少しビジョンドリブンで、いい意味で大馬鹿な人だと、もっとガッツリ資金調達して赤字掘って、リスクは高くなるけれども最終的にはすごいプロダクトを作って面を取るということもできたのかなと思ったりはします。
視聴者A
ただ、先ほどおっしゃっていた、月次の利用料が15000円でTAM考えても、ある程度市場をとっても単体でIPOは厳しそう、だからMAという、透徹した合理的な判断は逆に経営者としては凄みを感じますね。だからMAだと腹を決めるところが、新しい世代の経営者だなと感じました。
八尾
他の視聴者の方からもコメントが来ています。
視聴者B
私も前に別の会社に勤めている時に事業売却をしたことが何回かあるのですが、高く売れるか安く売れるかという観点ももちろんありましたが、ここに売るとこの事業が成長するのに一番いいパートナーだよねという価値観で売り先を選んだこともありました。
今回、皆さんが売却した時に、この事業を売るのであれば値段高い低いではなくて、この売り先が事業にとって一番いいよねという考え方もありましたか?
吉永
そうですね。メルプの事業を売って終わりでななくて、ちょうど0→1が終わったフェーズだと思っていましたので、これから売り先とともにメルプを成長させていきたいという思いがあったので、売却先とのシナジーの観点もありました。
視聴者B
なるほどですね。ありがとうございます。
あと、IPOは事業単体だと難しそうなのでMAという話でしたが、自己資金でされていたのであれば、そのまま事業を続けるという判断もあったと思いますが、その点はいかがですか?
吉永
そうですね。確かに、今いただいたご質問を聞いて、先ほど話したのは正確ではなかったと思いました。
おそらくですが、私は仮設検証型の人間でして、PMFを達成した時点で結構満足してしまったというのがあると思います。
PMFを達成したから、メルプへの興味が失われるということはなかったのですが、自分たちだけでメルプのグロースを検証していくのは難しいかなと感じていましたので、すでに人と資金とサービスグロースのノウハウのある会社に売却して、むしろその売却先の会社から、グロースにおける戦い方を勉強したいという思いもありました。
八尾
ありがとうございます。やはり、視聴者の先輩方にこうして質問いただけると、勉強会が締まっていいですね。
最後に、MAする際に、今回の経験を踏まえてこういうことに気をつけたらいいのではないかな?という点を3つ紹介いただけますか?
吉永
まず1つ目は、「先人の知恵を借りる」です。
ラ・サールの中でも先人でこうした事業の売却経験がある方がたくさんいらっしゃると思いますので、まず相談した方が、方向性がクリアになるかなと思います。
2つ目は、「事業のダウンサイドも誠実に話す」です。
結構、交渉の時に、自社のいい部分だけを大きく見せて、ダウンサイドはあまり話さないということがあるかもしれません。
ただ、結局、意向表明書の後、詳細DDがあるので全部つまびらかになりますので、ダウンサイドも誠実に話した方がいいと思います。
あとは、今後の売り上げの予測も、大風呂敷を広げて話すのではなく、こうしたリスクも認識した上で合理的な予測を伝えることは、逆にプラス評価になると思います。
3つ目は、「ビジョンと市場の見極め」です。
これは、IPOかMAかにもつながると思いますが、私含め、特に初めて起業する多くのスタートアップの方はIPOを目指して起業すると思います。
ただ、事業を継続していくうちに、今のモデルのままだとIPOはもしかしたら難しいのではないか?何か次の収益の柱を立てないと難しいのではないか?ということがあると思います。
ですので、ビジョンを持ちつつも、事業と自分の今の立ち位置を客観的に評価するのは必要なのかなと思います。
八尾
まとめをありがとうございます。
あと、こちらがおすすめの本ということで、私も買って読みます。軽く紹介いただいて良いですか?
吉永
こちらの、「会社売却バイアウト実務のすべて」という本は、売り手の目線に立って売却のプロセスを詳しく書いている本です。
なかなか売り手の目線に立って書かれている本がないので、事業を売却したい人にはおすすめだと思います。私は、この本に書いてある通りに必要書類を作成していました。事例もあるのでストーリー仕立てで面白いと思います。
八尾
紹介ありがとうございます。
今回は、MAのプロセスに関して詳しく説明いただいて勉強になりました。
MAした後、今働いてみて実際どうなのか?という点も面白いと思いますので、また別の機会にラサベンを開催して聞けたらと思います。
それでは、続いて、flixy CTOの片岡君の話も聞いてみたいと思います。
【ラサール55期 片岡vol.1】flixy CTOとして:ラサール後輩CEOから、リクルートを1週間以内にやめてくれと言われた? に続く。